連載 「海の名前」 2024年1月号


〜 帆走漁船(国内) 〜

帆曳船とは、舟を横向きにして、風の力を利用しマストの上、船尾、船首などから綱に付けた網を引き、浅い海底にいるシラウオ、ワカサギ、エビなどを獲る底引き網漁を行う舟で、帆引船、帆引き船とも表記されます。霞ヶ浦の帆曳船の帆は高さ9メートル、幅14〜16メートルほどと船体からはみ出す大きさで、明治時代に考案され最盛期には900艘以上が就航していたそうです。大型の1枚帆で、帆の上部の孟宗竹の帆桁から3本の「つり縄」を海中の袋網に結び付け、船体と帆を風上に傾けながら網を引きます。これが、干拓前の八郎潟にも伝わりましたが、動力船によるトロール漁に移行し、やがて埋め立てで無くなりました。鹿児島県出水や熊本県芦北の現在のクマエビ漁の打瀬船は、マストの本数が多く、大きな帆は用いません。打瀬船の帆装は、帆柱3〜4本で、本帆は横方向に5本前後の竹の支えが入り、船首と船尾に突き出した棒にも補助帆などが張れる構造になっているものもあります。北海道の野付湾では、ホッカイエビの漁法として、アマモの繁殖場を傷つけないために小型の打瀬船が現在も使用されています。この野付湾の「打瀬舟」は2本の帆柱に、3枚の独特な縦帆(三角帆)を使用しています。

<関連書籍>
「海の名前」(東京書籍刊)中村庸夫:著・写真


帆曳船、霞ヶ浦、茨城

打瀬船、鹿児島

打瀬舟、尾岱沼、北海道





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